「フィンランド語を勉強したいので,教材を教えてほしい」 という質問をよく受けます。以下は,簡単なガイドです。最近は,オンライン書店のAmazon.co.jp で「フィンランド語」をキーワードに検索すると,日本語で書かれた非常にやさしい入門書や旅行会話集などがいくつもヒットします。ここでは,そういったものでは満足できなくて,もう少し先に進みたいという人を念頭に,教科書・文法書・辞書などを紹介します。
ここにあげた学習書・辞書等の入手方法・在庫状況に関しては,最寄りの書店や出版元に直接お問い合わせください。[ フィンランドの書店・出版社に関する簡単な案内 ]
とくに大学入試のための英語教育の悪い影響で,文法というと顔をしかめる人も多いとは思います。確かに,文法と単語を覚えれば,外国語が身に付くという考え方は間違っていると私も考えています。しかし,最低限の文法知識は抑えておかないと,いつまでたっても初級のままです。「フィンランド語を本格的に勉強しようとは思わない,あいさつが出来る程度で十分」などと言う人もいるようですが,フィンランド語を日本語に置き換えて,そういうことばを口にする外国人と自分は本気で親しく付き合いたいと思うかどうか考えてみてください (^^)
日本語で書かれたものを3つだけ挙げておきます。[3] の文法書の巻末をみると,日本語の教材についてのもう少し詳しい解説があります。
[1] は,語彙が少し古くなってますが,ページ数の割りには,文法の要点をしっかり説明してある入門書です。[2] は,初級編と銘打っていますが,かなり本格的です。中級編も出ています。[3] は待望の日本語で書かれた up to date なフィンランド語実用文法です。
参考のために英語で書かれた入門書なども,簡単に紹介しておきます。参考にしてください。入門書では [4] が手に入れやすいかと思います。
言語学的にきちんと勉強したい人には,1960年代に出たものですが,体系的な文法解説のある本格的な学習書[5]を大学の図書館などで探すことをおすすめします。
[5] で勉強すれば,ふつうはとくに文法書を購入する必要はないと思いますが,どうしても文法書と名の付いたもの手もとに置きたいという人は,[6] が手頃でしょう。もともとフィンランド語学習者向けに書かれた文法書の英語版で,初学者にもわかりやすく書かれています。[7] は言語学者を対象とする専門的な記述文法で,実用的な文法書ではありません。
フィンランド語で書かれた文法書を2種類あげておきます。[8] 「フィンランド語基礎文法」は,[6] のフィンランド語版にあたる文法書の第4版で,細部まで照らし合わせて確認したわけではありませんが,この2つの文法書の内容は基本的に同じはずです。学習者用ではありませんが,網羅的な文法書として,フィンランド語の標準文法 [9] があります。1700ページもあって重たい大判の文法書なので,鞄に入れて持ち歩いたり,ベッドに横になって読むには適さないが,オンライン版 [10] がインターネット上で無料で利用できます。索引が18ページしかない書籍版と比べ,全文検索のできるオンライン版はたいへん便利です。
外国人の学習者がこれ1冊持っていれば十分という辞書は,残念ながらフィンランド語にはありません。いずれにしても,日本の中型英和辞典のような至れり尽くせりの辞書は世界では例外と考えてください。
国内で出ている日本語との対訳辞書は,比較的高価な上,私自身が実際に利用したことがないため,紹介は控えます。Amazon.co.jp で簡単に検索できるので,読者のコメントを参考にして判断してください。何年か前に,フィンランドの日本語研究者たちが,比較的大きな「日本語・フィンランド語辞典」を編纂する計画をたてて,国際交流基金に助成金を申請していたようですが,その後のことは知りません。
フィンランド語を本格的に勉強しようという人は,フィンランドで出ている英語との対訳辞典を手に入れることをおすすめします。何種類か出ていますが,2つあげてみます。[11] は,フィン英辞典と英フィン辞典が合体したもので,フィンランドの高校生向けの辞書ですが,日本人が最初に買う辞典としても手頃だと思います。CD-ROM版がセットになったものが出ていて,その方がお買い得です。ただ,カバンにいれて持ち運ぶには少し大きすぎると思います。「フィン・英辞典」として最も大きい [12] は,机上版の辞書です。
なお,この2つの辞書は,フィンランド人の英語学習用に作られているので,フィンランド語の名詞や動詞の活用のしかたに関する情報は書いてありません。
上級の学習者のために,フィンランド語の国語辞典についてやや詳しくふれておきます。フィンランド語の国語辞典にも,書籍版と電子辞書があります。
[13] は「外国人学習者向け」と銘打っていて,前書きによると,見出し語数は1万7千語。活用する語 (名詞・動詞,代名詞,数詞など)には,主要な活用形が,見出し語形の後に添えられているという,従来の辞書にない特徴もあります。語義も比較的平易な語彙で説明され,好感が持てますが,おそらく唯一の難点は,私のような年代で日常的に使うには,印刷の文字が小さすぎることでしょうか。
[14] は,フィンランド語の辞書としては最大 (見出し語約 20 万語,約 4500 ページ) で,何度か普及版が出ています。本文は初版 (全6巻) 以来変わっていませんが,最近の版は,縮刷になって3巻になったほか,最後の巻の巻末に新語などを収録した補遺がついています。「現代フィンランド語」と銘打っているものの,用例の大部分は1938年以前のテクストから採集されたもので,叙事詩「カレワラ」からの用例も引かれています。この辞書は,最近は書店で見かけないし,オンライン書店で検索にもひっかからないので,[16] に道を譲って,現役を引退したと考えてよさそうです。
[16][17] は同じ辞典の書籍版と電子版で,電子版の方が2年早く出ています。この辞書は,1990-94年に出た『フィンランド語基礎辞典』(Suomen kielen perussanakirja) の改訂版。見出し語数,ページ数ともに,『現代フィンランド語辞典』 [14] の半分くらいの規模で,親辞典から古語などを省いたものに,新語を加えています。現在入手可能なフィンランド語の辞典としては,もっとも大きなもの,かつ,もっとも信頼がおけるものと考えてよいでしょう。
『フィンランド語基礎辞典』 が国立の研究所のプロジェクトの産物とすれば,出版社の企画として出された [15] 『新フィンランド語辞典』 (1344 ページ,見出し語約 70,000 語) は,1巻本のフィンランド語国語辞典としては唯一のものです。見出し語の解説が要領を得ていて,また,小項目の見出し以外にはちゃんと用例も添えられているので,持ち運ぶ辞書として使うと便利です。この辞書は,1993年に出たB5判の机上版辞典 『フィンランド語辞典』 (863 ページ,見出し語約 45,000 語) の改訂版。新版には,地名などの固有名詞も収録されています。
フランス語やスペイン語には『動詞活用の手引き』というような名前の,動詞の活用形が網羅的に載っている便利な参考書があることはご存じかと思います。あまり知られていませんが,フィンランド語の動詞の活用形についても同じような参考書が出ています。
かなり専門的ですが,フィンランド語の構造を概観したものを2つあげておきます。